「ネムとクロ」
クロは死んだ。
車に轢かれて死んだ。
クロは筋骨隆々とした、たくましいオスの黒猫だった。
昔住んでいたアパートの庭。よく赤い首輪の黒猫が遊びに来ていた。
真っ赤なミニトマトの向こうから、石像のようにピタッと止まっては、
薄黄色の大きな目で、コチラをうかがっていた。
部屋の中のネムも、彼が来ると同じようにピタッと止まって、
耳をアンテナのようにピンと張り、
ミンミンとセミの鳴く中しばらく静寂のにらみ合いが続くのだった。
黒猫はだんだん大胆になり、
のっしのし縁側の網戸ごしまで近づいて来るようになった。
網戸というバリアがある限り、
ネムは余裕の表情で相手の匂いをクンクンやっているのだが、
意地悪な私は、網戸をガラっと開けてやるのだ。
黒猫が我が家よろしく入って来ると彼女はもう大パニック。
ひとしきり部屋をバタバタ飛びまわると、
「シャーッシャー、ウ~ッ」と威嚇の声をあげながらソロリ黒猫に近づいていく。
この時点でもう耳がピタリと後ろに寝ているので、戦わずしてネムの負けである。
ネムは赤ちゃん猫の時もらって来て以来、外に出したことの無い、箱入り内弁慶娘。
物心?ついてから他の猫と触れ合ったことなど無いのだ。
黒猫は、その内、当然のように遊びに来ては、「中に入れろ」と
網戸をワシャワシャ「ニャーニャー」。のそりと入りこんでは、彼女の
エサをバリボリと食べるようになった。かわいそうなネム。
彼女もときどき堪忍袋の緒がきれて、自分のエサを食む黒猫に向かって
のろのろネムパンチを繰り出すのだが、
5倍速のクロパンチが彼女の鼻面にヒットするのがオチだった。
黒猫は私にも擦り寄って慣れるようになった。
オスだけあってゴツゴツしてザラッとした固い体毛。
近くでよく観察すると、黒いと思っていた毛はやや焦げ茶が混じり、
舌は真っ赤にチロチロとしている。
薄黄色の目は、瞳の周辺にエメラルドグリーンの網が走っている。
「わぁ、ターコイズみたい。」と思った。
家の中で黒目がまんまるになると、顔つきはネムにソックリだ。
エサ争奪戦以外では、ネムと黒猫はだいぶん仲良くなってきた。
おしりの匂いを嗅ぎあったりしているが、依然として上下関係は黒猫優位のようだ。
ある日、家賃を納めに大家の家に行くと、大きな庭に赤い首輪の黒猫がいた。
「あれっ?あの子、家の庭によく来る子だ。」
「あぁ、クロね。あなたのトコの猫ちゃんと兄弟なのよ。
ホラ、何匹かいたけど余っちゃったからウチで飼ってるの。
そう、どうりで最近散歩が遅いと思ったらお宅にお邪魔してたのねぇ。」
ネムはこの大家に紹介されて、もらった子猫だった。
その時、一番活きのいいのをもらってきたのだが、
鼻水を垂らして弱弱しく「ミーミー」鳴く黒猫がいた。
宮崎アニメの影響もあって黒猫がほしかったのだが、
すぐ死んじゃうと嫌だから辞めたのだ。
こんな立派になるんだったらクロをもらえば良かったなぁと
ウチのキジ猫に失礼なことを思いながらも、
まぁ、遊びに来てくれるんだからキジもクロも楽しめて嬉しいナ。
と人間様の身勝手な傲慢さに、我ながら罪悪感。
それからしばらく夏のあいだ、クロは頻繁に家に姿を見せるようになった。
まったく警戒心のないクロはいつも威風堂々として
「ご機嫌いかが?」と黒服紳士のように美しい。
人の足に体重を乗せて体当たりしては、ゴロンとひっくり返って腹を見せ
ウネウネと変テコな挨拶をする。
ネムも同類との触れ合いで、少しは猫社会のルールや
外の出来事を知ってくれるといいナ、と思う。
「あそこのブロック塀は一回壁を蹴らなきゃ登れないにゃ。」
「あの隙間の椿の枝はスリスリすると気持ちいけど、
トゲがあるから気をつけるにゃ。」
「白猫曜日の月の晩には家の庭で集会があるにゃ。」
とか言っているのかしらん。
秋口にさしかかり、庭のミニトマトはすっかり無くなり、
トクサばかりが青々と目立つようになると、クロは突然姿を見せなくなった。
ネムにとっては平穏な日々が帰ってきたように思われるが、
時々、誰もいない庭に向かって「ニャッ」と滅多にあげない声を寂しげに出している。
ジャイアンみたいな兄弟でも、遊びに来ないと物足りないのかな?
気まぐれな猫のこと、お散歩ルートを変更したのかもと
さして気にも留めていなかったのだが、クロが現れなくなって2週間ばかりして
家賃を納めに行くと、クロが亡くなったことを知った。
「クロ、最近姿を見ませんねぇ。」
「あの子、死んじゃったのヨ。連雀通りで車に轢かれてね。
朝、道端で冷たくなったのを見つけた人がいて・・・・。」
家の前には大きな車道が走っている。
堂々としたクロは、堂々と車に跳ねられてしまったに違いない。
ネムはクロが死んだことを知っていたのかもしれないな、と思う。
それか、死んだ後もクロは、家の庭に遊びに来てくれていたのかもしれない。
それから5年、すっかり猫らしさを無くした
でぶっちょぐうたら猫のネム。
今は電話台の上、受話器をはずしたり、おなかの肉をはみ出しながら
ダランとしっぽを伸ばして寝ることが彼女の日課だ。
時々、ネムが私の足に体当たりして、ひっくり返って
ウネウネするたび、クロを思い出す。
ふわふわ漂う紋黄蝶を、一心不乱に追いかけるクロの姿は
まだ鮮やかに私の記憶の中にある。
ネムとクロ。どちらが幸せな人生なのか私にはわからない。
彼女の記憶の中にクロは生きているのだろうか?
おわり
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Jason