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COFFEE & GALLERY SALON " you " COFFEE ROASTER " in " 自家焙煎珈琲店 国分寺(陽)&青梅(陰) Since 2006
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夕暮れの薄暗い厨房には
なんとも甘酸っぱいような腹の空く匂いが立ち込めている。
目深に帽子を被ったオヤジが
今夜出す酒の肴を仕込んでいるからだ。

ふいに店のドアが開くと
中肉中背で四十がらみの男が、季節外れの真っ黒なコートを羽織って
陰鬱につっ立っている。

「ヘイらっしゃい!」

「魚にしてくれ」

店のカウンターにつくなり男は言った。

「魚いっちょぉ!」

厨房のオヤジは
大きな寸胴に手際よくレードルでスープを加えると
どんどこ沸かし始めた。

ぐらぐら煮立ったところで、
オヤジが男のつんつん頭をむんずと掴み
鍋の中へ、ぼちゃりと身体ごと圧し込んだ。

「今夜はこれから雨が降るもんだから、ここいらは川になりやす。
魚になるにゃぁ丁度いい日和でさぁ」

「へぇ、そうかい」
男は鍋の中で大仰に腕組みをしてカラカラ笑った。

みるみるうちに、男は肌色にぬろぬろ融けだして
死んだ魚みたいにトロンとした目玉だけが、ぷかぷか浮いたり沈んだりしながら
泡の飛沫の合間を転げている。

追い鰹をパッと散らし、すぐに落とし蓋をする。
とろ火のまま半時もしたら、ぱかぱかと蓋が踊り始めた。

外にはもうシタシタ雨音が聞こえはじめている。

火を止め更に半時すると、店のなかにまでタプリと
コンクリ色の雨水が流れこんできた。

「もう頃合いだな」

オヤジが寸胴の中身をステンレスの排水溝にざばぁと流し込むと
つんつんとした背びれをぴかぴか水面に立てながら
もうすっかり男は溶岩色のオニオコゼになって、
店の外へと滑り出していくのであった。

「毎度!」

こうなってくると、果たして男は
はじめから人間だったのかどうだったのか。
それすらも怪しいのである。
オヤジはぼぉっと見送りながら

「最初はたしか・・・エアプランツだったな。
まぁ、今となってはどうでもいいことか。
それにしたって、客じゃねぇ客ばっかりの店ってのも
困りもんだよな」

と独りごちると
また淡々とグリーンネックレスを酢で締め始めた。


(完)



企画展「多肉道具店」



6月24日(金)~6月29日(水)

30日(木)が搬出日となります関係で
7月1日(金)は臨時休業とさせていただきます。


ねじまき雲(陽)にて


出店者:

bakery & cafe 「noco」http://noco.wpblog.jp/

古道具「マルポー」https://ja-jp.facebook.com/furudougu.marupo

流木アート「monomononomori」https://m.facebook.com/monomononomori-1700824156858666/



多肉植物やエアプランツの造形に+αを。
ユーモラスな異世界感を、+古道具、+アート、+パンで
表現していただきます。

古道具は多肉植物を植えたものだけでなく
その周辺の雰囲気出しガーデニング材料などもご用意いただける予定です。

期間中は特別メニューとなりますので、
通常メニューはございません。
ご了承ください。

注)オニオコゼのスープとグリーンネックレスの酢漬けはございませんので
  あしからず。








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